2005年4号

政府専門家セミナー及びSB22参加報告



 ドイツ・ボンの「Hotel Maritim」において、5月16日~17日に政府専門家セミナー、19日~27日まで国連気候変動枠組条約第22回補助機関会合(SB22)が開催された。UNFCCC事務局の最終発表による参加者数は、157ヶ国・1589名にも達し、前回のSB20と比較すると約300名増えた。ロシアの批准によって、京都議定書が2月に発効したこともあり、参加者の多くが、政府専門家セミナー開催の2日間に集中していたようであった。19日以降に参加者が減少したことが印象的であった。

(会場)
SB22会場
 
(政府専門家セミナー開催風景)
政府専門家セミナー開催風景
 

ニュースレターでは主な概要を掲載させて頂くので、報告書は以下を参照。
http://dev.gispri.or.jp/kankyo/unfccc/pdf/sb22_enb05620ver3.pdf


【主な概要】

1.政府専門家セミナー

共同議長: 小西正樹外務省参与 (日本)、Chow Kok Kee(マレーシア)
テ ー マ:
a) 締約国による気候変動への効果的で適切な対応の進展を助けるような、緩和策・適応策に関する行動
b) 気候変動枠組条約及び京都議定書における既存の約束を履行するために、各国政府によって採られている政策措置

先進国 ⇒ 自国の取り組み、長期目標、技術革新・普及の重要性、将来枠組みなどに言及
4月28日に閣議決定した「京都議定書目標達成計画」について説明した。また、懲罰的でなく、全ての国が相互協力によって国際取り組みを前進させることを念頭に、現実的な対話を求めた。(外務省 西村六善地球環境問題担当大使)
EUが採択した「産業革命前の2度以内」でも完全に安全でない。そのためには、2050年までに世界のGHG排出量を少なくとも15%削減しなければならない。(英国)
タイタニック号は何度も警告があったが行動が遅すぎて結局氷山にぶつかってしまった。温暖化対策も同じ。今すぐ行動を起こすべきだ。(英国)
2008年~2012年までの政策は決定していないが、現在同様に、CO2税、産業界との合意、排出量取引を予定している。(ノルウェー)
EUETSは、他の国内排出量取引とリンクする。(欧州委員会)
米国の気候変動政策は、気候変動に関する短期と長期の両方に関わる三つの要素を持っている。
1) GHG排出量の成長をゆるやかにし、
2) 科学と技術への主な投資を通した現代と将来の行動両方の重要な基礎を築き、
3) 世界的な協力を促進すること。(米国)
重要なことは、国内レベルでは、エネルギー計画を決定すること。国際レベルでは、補助金などでエネルギー部門への投資を促すこと。(オランダ)
緩和の政策措置に18億ドル以上を費やすことをコミットした。(オーストラリア)
2013年以降のCDMに対する不確定要素を排除しなくてはいけない。(フランス)
技術革新には投資が必要であり、苦難を埋めるような政策が必要である。EUでは、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電を支援している。(EU)

途上国 ⇒ 自国の取り組み、CDMの重要性、技術移転、附属書Ⅰ国への不満などに言及
再生可能エネルギー、原子力、省エネ技術の国際支援が必要。(中国)
技術移転での新しいメカニズム構築が重要。(中国)
CDMは、2013年以降も続けられるべき。(ブラジル)
強化された京都枠組み(Strengthened Kyoto)が必要。(南アフリカ)
将来はエネルギーの40%を原子力とする。コジェネも重要と考えている。(韓国)
CDMはもっと手続きがシンプルであるべき。(モロッコ)
70年代の大干ばつ以降気象の情報システムを整備し、農民に気象情報を提供する。(マリ)
CDMは重要であり、拡大することが必要。(アルゼンチン)
附属書I国は、GHG排出量削減と技術移転のコミットメントを満たしていない。(サウジアラビア)
非附属書I国も自主的な排出削減に努めるべき。(ツバル)


2.適応措置について

 適応措置に関するワークショップが開催された。5カ年作業プログラムの目的、対象範囲、構成、過程・結果、初期段階での具体的な活動、見直し・更なる発展をトピックとして行われた。多くの国の共通認識としては以下のようなものがあった。
(1) 適応措置は途上国・先進国共通の問題で緊急に必要である
(2) 温暖化の影響と適応措置に関する知識と意識の向上がまず必要である
(3) 適応措置は持続可能な発展のための対策に組み込まれるべきである
(4) 5カ年作業計画の見直し・更なる発展のためには、IPCCをはじめとした既存の取り組みが有用である

合意内容
5カ年作業計画のCOP11での採択を目指してSBSTA23にて検討する。
この作業を促進するため非公式ワークショップを開催する。


3.緩和措置について

 緩和措置に関するワークショップが開催された。緩和技術の開発、配置、普及に影響を与えうる要因(技術開発のための国家間協力、障壁の把握と除去等)及び緩和措置の社会経済的側面(費用と便益、共便益、貧困の撲滅、波及効果等の経済的影響)について、プレゼンテーションが行われた。

合意内容
 UNFCCC事務局がこれまでのワークショップについての報告書を作成し、SBSTA23での議論に役立てることになった。


4.非附属書Ⅰ国の第二次、第三次国別報告書の提出

 GEFからの資金提供後4年以内の作成。COP15(2009年)において再検討する。


5.登録簿システム

 国際取引ログ(ITL)は、予想より1遅れ、2006年第3四半期までに稼動予定。

現段階では ITL開発作業に関して下記の段階があると予想されている
(1) 開発前の作業。ITL技術設計の審査を含む
(2) ITLデータベース、プログラムコード及び管理者用インタフェースの開発(ユニットテスト及びITL構成要素の微調整含む)
(3) ハードウェア環境や構築されたコミュニケーションインフラに基づく完全版ITLシステムの統合と回帰テスト
(4) 予想負荷の処理を確認するためのITLパフォーマンステスト
(5) テスト、プロダクション、初期設定環境の中でのITLシステムの完全導入
(6) 登録簿及びITLとEUのCITLの連絡(コミュニケーション)の初期化


6.オゾン層と気候系保護に関するIPCC特別報告書

 IPCCとモントリオール議定書技術・評価パネルが作成した報告書が締約国に評価された。報告書の内容について、各国の意見を募ってSBSTA24で検討する。


7.その他

 国際航空輸送・海上輸送に使用する燃料からの排出量や特別気候変動基金などは、合意が得られず次回へ持ち越し。


8.サイドイベント

 19日(木)~26日(木)まで条約事務局、各国政府代表団、国際機関、研究機関、環境NGOなどが主催した46件の公式サイドイベントが行われた。

【主要テーマ】
(1) 京都メカニズム‐持続可能な開発のための市場作り
(2) 動枠組条約プロセスの科学的根拠
(3) 動枠組条約と京都議定書における研究報告
(4) 未来へのステップの展望


【所感】

 政府専門家セミナーでは、先進国と途上国の立場の違いは見られたものの、建設的でオープンな議論が展開された。2013年以降の枠組みについては、米国・中国・インドを含めた地球規模での取り組みの重要性を参加者は認識していた。

 サイドイベントにおいても、将来枠組みに関するテーマのイベントに多くの人が参加し様々なアプローチが発表された。税制優遇処置による技術革新、技術普及の推進、ユニラテラルCDM(途上国間のCDM)の承認、2013年以降のCDMクレジットの保証、排出量取引の拡大(部門、地域)、累積排出量・GDP当たりのCO2排出量・一人当たりのGDPなどにより削減目標を決定、一人当たりのGDP購買力平価によって途上国支援の負担を決定するなど様々な提案と議論が展開され大変有意義なものであった。




[地球環境対策部 矢尾板泰久]

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