デン・ハーグ(オランダ)にて11月13日~25日にCOP6が開催された。新聞報道等でご存じの通 り、会期を一日延長したものの交渉はまとまらず、主要事項について何も合意に達することができなかったため、結局中断(“suspend”)扱いとなった。来年5~6月あたりに再開(“resume”)が見込まれている。米大統領選の混迷と日本における内閣不信任案騒動という日米政局の混乱の最中に、やはり同様に一筋縄ではいかなかった今回のCOP6について随想する。なお、さらに具体的な結果については、
http://dev.gispri.or.jp/kankyo/unfccc/2007.htmlをご覧いただければ幸いである。
京都で行われたCOP3以降、最大のイベントともいえるCOP6は、かねてより開催国としてオランダが名乗りを上げ、デン・ハーグが会場として決定していた。オランダといえば国土の4分の1は水面
下であり、温暖化の被害がすぐに連想されるばかりでなく、平地が多く自転車レーンや公共交通
機関が充実し、プロジェクトベースの排出削減ユニットの取得促進スキームを考えるなど、政策面
において話題にのぼることも多い。
デン・ハーグは人口50万規模程度のオランダ第3の都市であるが、国の政治の中心地として国会議事堂や各省庁、各国大使館が集中し、女王の宮殿があることでも有名である。
会場には、中心部(写真1)から2~3km離れたオランダ国際会議場(写
真2)が使用された。メイン・サブのホールに加え、その他多くの会議室や、付属展示ホールを利用したプレス用スペース、各国代表団ブース、事務局作業ブースの設置など、かなりの広さを擁していた。さらに加えて会議場裏手徒歩5分のところに展示パビリオンも設置された。会場内には参加者向けに、相当数の利用フリーのパソコンが設置され、加えて電源や電話回線のとれる机が置かれたルームが2部屋、各部屋にはフリーに使える電話多数とコピー機一台が設置され、いつも利用待ちの列ができていた。確かに無料で電話がかけられ、コピーが使い放題なのは作業には有り難いことだが、国際電話を知り合いに長々とかけまくる者や、散乱するコピー用紙をみると、これはややサービスしすぎではないかとも思われた。今回の節度の無い利用がひとたび悪い経験として残ると、今後、本当に必要なときに必要な人にまで、こういった便利なサービスが供給されなくなる事態が出てきてしまうことが問題である。
参加者のホテルは多くが市内中心部か、そこから4~5kmほど北の北海に面 した夏のリゾート地スフェヘニンゲン、もしくは会場の近傍等に位置していたが、市内はトラムが縦横に密に走り、今回も市内公共交通 のフリーパスが与えられたため、概ね利便性は高かったと思われる。参加登録者はCOP3の約1万人には及ばないものの、COP4の約5,600人、COP5の約4,200人は上回り、約7,000人であった。これは会議の世間的注目度に概ね比例しているという実感がある。
議定書には実際に発効した後の各国が従うべき運用則(ガイドライン等)は具体的に定められておらず、COP/moP1(議定書発効後に議定書締約国により行われる第1回会合)で決定されることとなっている(但し17条排出量
取引のみCOP6決定)。しかしルールが発効後までどうなるか分からない議定書を主要締約国が前もって批准できるはずもない。よって主要ルールについてはCOP/moP1決定内容をCOP6において、事実上先取り合意することで、早期に批准の判断ができるようにするわけである(COP6でCOP/moP1に勧告する内容を決定する形をとる)。COP4で採択されたブエノスアイレス行動計画でこのことが具体的に定められ、それ以降、その合意テキストをまとめようと作業を進めてきた。
よってCOP5では議論の進展を確保するため、COP6までに補助機関会合を2回行うことが決定し、1回目は6月(SB12)ボンにて、2回目は9月
(SB13partⅠ)リヨンにて行われ、この2つの会合状況については既に同誌面
あるいはHPにて紹介した通りである。締約国数で圧倒的多数である途上国は、SB12にて一枚岩を結成して先進国に抵抗を強める傾向を見せたものの、SB13partⅠではCOP6決定を間近に控え、各利害の立場を反映し再び主張が分裂する傾向を見せた。しかし個々の主張や、まとまりを見せる部分についてははより強固になってきていた。この間の各交渉テキストの進捗状況については技術的事項についてそこそこの進展をみせたものの、それ以外の主要対立点は思うように収束せず、10月の各議題毎の非公式協議を経て、今回COP6期間中第一週に再開されたSB13(partⅡ)のわずか会期6日間で、事務方レベルでどこまで翌週のCOP6閣僚会議に出してもおかしくないテキストにできるかが問われていた。つまり、当初よりCOP6合意が厳しい状況であったことは間違いないといえるだろう。
2002年京都議定書早期発効を掲げる日本としては、日本を含め各国が批准可能となるような合意にたどり着くことがかねてよりの目標であった。
特に日本としての主要な課題は、<1> 日本が森林等の吸収源にによって3.7%分(90年排出量
を100%として)の削減としてカウント可能となるものが採択されること、<2>
京都メカニズム使用において定量的上限を定めない・CDM事業としての適否はホスト国の判断とする・その資金としてODA使用を排除しないなど、必要以上の制約を課すことをなるべく避けること、<3>
不遵守の場合でも罰金などの強制的な結果を課すことは事実上執行が不可能なため無意味であり、遵守促進を進めるような制度とすること等であった。
しかし当初より上記スタンスは環境NGOに全ての項目について、実質的な排出削減を損なう主張と受け取られてきた。特に吸収源が、米・加等に多量
のクレジットを与え、その他の国内削減無しでも目標が達成されてしまうことで、激しく非難されていたことはご存じの通
りである。それ故今回もNGO投票による本日の化石賞(当日最も悪い発言をした国の投票)において、米国等とトップ争いを繰り広げることになった。
それでも日本政府が吸収源にこだわざるを得ないのは、恐らくCOP3における日本の数量
約束の上での前提が、吸収源により3.7%吸収となると見積もられたからである。地球温暖化防止推進大綱には、「2010年頃における我が国全体の森林等による純吸収量
が3.7%程度と推計されるところ、今後の国際交渉において、必要な追加吸収分が確保されるよう努める」(下線筆者)と明記されており、3.7%確保に努めなければ政府自らが約束破りになってしまうのである。もし確保ができなければコントロールのしにくい民生運輸ではなく、産業界に追加削減の負担が来やすいことは想像でき、そういった意味では、産業界がこれを拒絶することも一理あるといえよう。しかしこれが米加等に大量
のクレジットを与え、相対的に日本の産業界が彼らに比べかえって不利になるケースも考えられるため、注意を要する。
スペシャルイベント
イベントの数自体はCOP5時よりもむしろ減らされているぐらいだが、本交渉の状況を考えれば無理もない。欧州等の国内制度や排出権取引など、現在あるいは将来に関する具体的なスキームに関するものは立ち見が出ることが多く、参加者の関心をうかがわせた。今回は用意された各部屋が大きいためわかりにくいが、会場内で行われたものに関しては各イベントとも平均して多くの人を集めていたと思われる。当研究所も今回初めてイベントを開催した。内容については本稿の次の報告に詳細を掲載しているのでご参照頂きたい。
NGOの行動
さすがに京都議定書の中身が決まるCOP6とあって、前回に比べ環境NGOの行動はかなり活発であった。吸収源に関する提案が出ると、すぐさま附属書1国の吸収量
がどれだけと見積もられることになるかを計算して批判したり、一週目の最後には会場前方に土嚢を積み上げ、海面
上昇への適応措置を意味する高さ1.5メートルの「堤防」が築き上げられた(写
真3)ことは話題となった。19日日曜夜には、ハーグ中央駅の向かいにある巨大な住宅国土計画環境省前において、太鼓を打ちならして掛け声をかけるデモが異様な盛り上がりをみせた(写
真4)。これは中央駅の人々の注目を集め、警察は周囲(そこはトラムの線路上であった)を車両で包囲して警戒にあたった。終盤では会場中央階段を埋め尽くし、How
will our grandchildren forgive you?という産業界に対する抗議の横断幕を張っての大合唱が巻きおこった(写
真5)。しかしどうも気候変動を憂いて訴えているというよりは、自分たちのパフォーマンスを思いきり楽しんでいるような、全くの学園祭ムードであることが、所詮NGOとはいってもイベント好きの先進国連中のお遊び活動と見られてしまうのでは、と感じるところではある。
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初日のCOP6の開会議事終了後、9月より一時中断の形をとっていた第13回補助機関会合(SB13)が再開された。さらにはその下部のジョイントワーキンググループ(JWG)、コンタクトグループ(CG)といったそれぞれの議題毎のグループで、翌週閣僚レベルにあげるための、事務レベルによる最後のテキストの詰めが議論された。
メカニズムにおいては、議長を助ける非公式の少数メンバー(フレンズ・オブ・ザ・チェアー)による非公開(インフォーマル・インフォーマル)での作業を進めていたが、SB13最終日の18日(土)11時にようやくCGが開かれた。インドからG778中国として意見提出したばかりであり、それをテキストに反映させるよう注文がつき、採択を行うSBI/SBSTA合同全体会議開会前の14時まで作業を続ける変更が決定され、未だにテキストが流動的であることが推測された。この日昼は各議題CGの最終会合ラッシュであったが、報告・レビュー等の5,7,8条CGにおいても最後まで、削除、ブラケットをとれ、入れろ、といった発言が続き、時間がないので今後ということで、とりあえず議長が用意したドラフト決議文を殆どそのままで押し切り、CGの結論とするなど、まとまりの無さを見せた。
LULUCFも前日夜から結局何も決まらずじまいだったようだが、期間中に注目を集めたのは米加日の合同提案による3条4項森林管理に関する「フェーズ・イン・アプローチ」である。これはある一定量
までは無条件で森林管理による吸収量を全量認め、それ以上については一定の割引をした上で吸収量
として認める。更に次の閾値以上の分については、再び全吸収量算入可能とするものである。これは日本のような国土の狭い国を配慮(一定まで全量
認める)しつつも米等が多大にクレジットを持つという懸念を抑え(割引)、かつ森林管理のインセンティブをも損なわない(閾値の設定)ことを意図して考え出されたものであり、あまり科学的根拠があるわけではない。またこれに従っていろいろなケースを試算しても、概して附属書Ⅰ国トータルであまり他に削減努力をしなくても済んでしまう結果
になることから環境NGOは猛反発した。EUは交渉担当者レベルでは一時この提案に理解の姿勢を見せたと思われるも、その後正式に反対を表明した。特に90年レベルでは算入していないのに目標達成には人為的活動と見なして算入できるという根本的問題がある。結局「フェーズ・イン・アプローチ」は一つのoptionとして翌週に残った。
途上国援助関連議題ではSB13最終全体会議の採択の場に至っても、なお途上国の不満が噴出、個別
修正箇所にまで言及するなど紛糾した。
メカニズムのテキストは全体で計90頁弱まで減り、内容は随分すっきりし、対立点が見やすくなった。しかしまだ未解決事項が多く、閣僚会合にすべて投げられるとは到底思えない。なお、補完性についてのoptionは下記3つにまとめられた。
(1) | no elaboration |
(2) | primarily domestic [6,12,17条で30%で制限] |
(3) | EU計算式 (ただし従来の5%の部分が[5][25]%となり、緩い案が入っている。) |
なおこの時点で、EU計算式が取得のみの話となり、移転の計算式による制限はoptionから消えたが、単なるミスのようで、COP6最終日に出たテキストでは移転の計算式が復活している。 |
いよいよ議論は事務レベルから閣僚レベルへと移行した。あれだけの膨大なブラケットを残したテキストをどう処理し、合意に持っていくのかが心配されたが、月曜夜の非公式閣僚全体会合で早速、
・各議題毎のCG・JWGの議長と現時点の成果物である公式文書を記載したもの。
・COP6議長(プレジデント)による非公式ノート
というプロンクCOP6議長のペーパーが2種類配られ、特に後者のペーパーは、先週までの交渉進展状況と未解決の「crunch
issue(交渉を進めるため明確な政治決断が必要な事項)」が各議題毎に簡潔に整理されたものであり、今後の交渉の急速な進展を期待させるものであった。非公式閣僚全体会合は公式のCOP6本会議と同時並行で行われた。各国閣僚は、本会議でのステートメント時には一度非公式閣僚会合を抜けて、終わるとまた戻ってくるという異例の会議進行となり、またプロンク議長は本来、本会議に出席すべきであるが、本会議には代理をたて、実質的に重要な交渉を行う非公式閣僚全体会合にて、積極的に各国の主張を明確化させ、議論を仕切っていた。そして各国閣僚には、重要だと思う方を自分で選んで出席しろと促し(当然、非公式を選ぶことになる)、形式にとらわれず、残された会議期間を少しでも有効に実質議論を進めようとする彼の決意を感じ取ることができた。またプロンク議長は非公式閣僚全体会合においては透明性を重視し、プレス以外には原則公開としたが、会場席数が限られており、通
路に傍聴の各国事務レベルの代表団があふれる状況もあったため、安全上の理由から多少の入場制限をせざるを得ないことに了解を求めた。そのためモニターで同時放映されることとなり、会期後半は会場はクローズドとなったため、主にNGOはモニターを見守ることとなった。
結局各テキストは膨大なoptionが残り、それを一つ一つ詰めていって閣僚会議で合意に至る時間はない。また各議題は相互に密接に連動する項目を抱え、政治レベルでの決断ということになると、どの項目でどの程度譲歩できるかは、他の項目がどういった結果
に終わるかによっても左右されるため、もはや各項目だけで判断されるのでなく、合意は主要項目全てのパッケージでということになる。ある国が特定の項目内容を変えることを要求すれば、それで不利になる別
の国は他項目での巻き返しをはかり、それがまたどこかの国の利害を左右すると言うように、まさに何本もの連立方程式の解を求める実に困難な作業である。閣僚会合では「compromise」を促す言葉がプロンク議長及び幾つかの締約国から繰り返された。A.途上国援助関連、B.メカニズム、C.LULUCF、D.政策措置・遵守・報告等 という4つの分科会に別
れ非公開で閣僚協議を進め、非公式閣僚全体会合で報告するという形が取られた。各国主張内容を明確化し把握したプロンク議長は、それを考慮しつつ23日(木)夜に議長調停案をパッケージで示し、(土曜昼までの延長含め)残り36時間でこれを議論のベースとして合意にこぎ着けたいと述べた。内容は上記A~Dの4つの議題についてそれぞれ項目毎に合意案として選ばれた選択肢が記載されている。まさに「折衷」案であり、それ故にかえってどの国にとっても不満なものとなってしまったのかもしれないが、あれだけの膨大な選択肢のある各テキストの中から一つのパッケージを作るとすれば無理もないであろう。以上のようなことからそもそも36時間で合意する事はかなり難しいことは明らかだったが、強力なイニシアチブを見せていたプロンク議長への期待や、京都議定書がまとまった経験から、何とか決まるのではと漠然と抱いていた人も多かった。交渉は以降最終土曜朝まで、非公開の密室会合が続いた。
(議長調停案の和訳はhttp://dev.gispri.or.jp/kankyo/unfccc/20006.html
を御覧ください)
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3条4項適用は基準年排出量 の3%まで |
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3条4項森林管理分は85%割引(但し3条3項に関して、実質的には炭素蓄積があるが、伐採により計算結果 が排出源となった場合には、それを相殺するまでは全量算入可、その後残りを85%割引となる) |
・
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附属書I国によるCDMとして原子力を除く |
・ | シンクCDMは新規植林・再植林はOK |
・ | メカニズム使用の定量 的上限は無し |
・ | 遵守委員会やCDM理事会(EB)のメンバー構成 |
○ | 原子力を除くことは中国が反対し、今回立場を明確にした。露も反対だった様子。日本も当初よりホスト国の判断事項としているので当然反対のスタンス。 | |
○ | 吸収源については調停案どおりだと計約0.56%吸収と見込まれるため、前述のように日本政府としては受け容れがたい。また米国も大統領選混迷の事情もあり、妥協の政治的決断をする事は困難であったと思われる。 | |
○ | 今回は主に先進国同士の対立事項の段階で合意に達しなかったようであり、例えば調停案のうち途上国問題関連までは具体的に内容の検討・議論ができずに終わった様子である。それ故、仮に上記先進国間の対立が解決したとしても、議長調停案を全て必要な修正を加えてパッケージとして合意する事は、いずれにしろ難しかったのではとも思われる。 |
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・ | >議長調停案を、先送りとなった交渉テキスト(SB13最終日及びCO6最終日の採択テキスト)完成のための政治的ガイダンスの一つの要素として、注意を払う。 |
・ | 来年1月15日までに締約国に、主にこの議長調停案に関する見解を提出する事を促す。事務局がそれを文書としてまとめる。 |
・ | COP6を中断(suspend)することを決定する。テキストに関する作業を完了させ、BAPAの全ての事項について包括的でバランスのとれた決定のパッケージを採択するために、来年5/6月の会議再開の望ましさに関する助言に努めることをプレジデントに要求 |
・ | 政治的協議を強化することを促す。再開会合において全てのBAPAの事項に関して、successfulな交渉の結論がえられるよう共通 の立場を探し当てること |
(中西 秀高)
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