2001年6号
IPCC第18回 総会 報告
2001年9月24~29日、統合報告書執筆者会議に続き、総会が開かれた。ここでは、第三次評価報告書統合報告書の承認及び、IPCCの将来の活動についての議論が行われた。
IPCC第3次評価報告書(TAR)は、地球温暖化問題全般に関する世界の最新の科学的知見をとりまとめたものである。本年4月ナイロビ総会にて、気候変動予測を扱う第1作業部会報告書(WG1)、温暖化の影響・適応を扱う第2作業部会報告書(WG2)、温暖化への対策・政治経済的側面の評価を扱う第3作業部会(WG3)報告書が採択された。TARはさらに本会合で審議・承認される統合報告書(SYR)から成る。3回にわたる代表執筆者会合や種々の専門家会合、専門家と政府による査読プロセスを経て、本会合は最後の審議の場であった。審議は、SPM(summary
for Policy Makers)についてパラ毎に、時には文毎に行われ、非常に長い時間をかけるものであった。また同時に、将来のIPCC活動についての議論も行われた。
総勢300名ほどが参加し、日本からは、近藤気象庁気象研究所気候研究部長、木村環境省地球環境局研究調査室長、谷口IPCC副議長、平石インベントリータスクフォース(TFI)共同議長 鬼頭気象庁気象研究所気候研究部室長、原沢国立環境研究所社会環境システム部室長ほか、外務省、環境省、経済省、文部科学省から担当者、TFI技術支援ユニット、地球人間環境フォーラム、GISPRIからは木村専務理事、小田原次長、田中研究員が出席した(17名)。
以下に、IPCC将来活動について簡単にまとめた。SYR詳細及び会合詳細は(http://dev.gispri.or.jp/kankyo/ipcc/ipccact7.html)に掲載の同会合報告詳細版を参照されたい。
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今後の評価報告書の作成の継続、作業部会の構造を現行のもの(WG1:科学的根拠、WG2:影響、適応、脆弱性、WG3:緩和対策、TFI)とすることは全会一致で決定した。
報告書作成の期間については、本会合では決定せず、新規ビューローが、専門家、SBSTAと相談し、次期評価報告書の作成タイミングについて次回IPCC総会に提案することとなった。
特別報告書の作成については、新規ビューローによる枠組みと総会で承認された優先順位の価値基準に従い作成されることとなった(UNFCCCや他の条約組織から報告書作成の要請に応えるかどうかについてはケースバイケースとする)。
TFIを第四の作業部会とするかについては、現在のタスクフォースの形式で継続することとなった。先進国と途上国から一人ずつである二人の共同議長はビューローメンバーから選出し、また、12人の新しいTFBのメンバーを追加(専門家をWMO地域から2人ずつ選ぶ)こととなった。
ビューローメンバーの構成(大きさ・地理的バランスなど)については、現在の規模(30名)と地理バランスを保つこととし、選出は4月の次回総会となった。具体的には、議長1名、副議長3名(明確な作業分担を持つこととする)、作業部会から共同議長2名とビューローメンバー6名、TFIから共同議長2名である。
気候変化と持続可能性に関する特別報告書/技術報告書の作成については議論が紛糾した。途上国からは、直ちに特別報告書の作成を開始することが促されたが、意見がまとまらず、結局、カナダから出された段階的アプローチ(技術報告書の作成から始める)を検討することとなった。しかし、作成決定には至っていない。スコーピングペーパー拡張版について1ヶ月の政府レビューにかけた後、ビューローにおいて議論し、そこで作成されたスコーピングペーパーが次回総会で承認された場合に作成の最終決定となる。尚、両報告書の違いは以下のとおり。
技術報告書…過去のIPCC報告書で取り扱った内容(引用文献など全て含む)から作成する。より短期で作成。
特別報告書…新規文献の評価を含む。政府による承認プロセスがある。
この他、気候変化と生物多様性に関する技術報告書(執筆者は既に選定済みで、2002年4月の完成に向けて作業が進められている)、土地利用、土地利用変化及び林業に関するインベントリーガイドラインの作成について議論された。
次回のIPCC総会は、2002年4月(場所未定、パリが候補地)に開催されることとなった。2001年12月にIPCCビューロー会合を開催する。
所 感
報告書の作成期間・時期について、様々な意見があった。温暖化交渉の場への継続した重要な科学的なインプットするために、COPなどの開催時期に合わせたい(=早め)という考えと、科学的知見の集積には時間が必要(=遅め)という考えがぶつかっていた。会議での結論は先送りになったものの、前者、つまり交渉におけるニーズが優先されるようである。どちらもIPCCの立場では重要なことである。IPCCは政府間パネルであり、資金拠出元を考慮しても、UNFCCCとは相互関連するべきである。他方、科学による成果物としてそれらと位置を保たなくてはならない。
「気候変化と持続可能な発展に関する特別報告書」についての議論は、ワシントンでのスコーピング会合(前号掲載)に続き、途上国対先進国の図式が明確になっていた。米を初めとする先進国は、6月に予想されたとおりに難色を示したが、結局カナダの段階的アプローチに賛成した。ワトソン議長の議長ぶりも大変興味深く、まず途上国に「重要である」旨の意見を相当数集め、その後カナダ提案を促し、同意にこぎつけた。
IPCCのSPMは実際の交渉プロセスにおいても引き合いに出されることが多い。そのため、各国の政策に基づくと伺える意見が時折みられた。中国は、執筆者会合に引き続き温暖化についての先進国の責任(過去と将来)を気にするコメントをした(執筆者会合時ほど、豪はこの点で中国と対立していなかった)。米は、公平性についての記述と、京都実施のためのコストに関して(特に低コストであることに関して)、バランスの取れた記述を要請した。サウジは安定化レベルについて、幅を持たし特定のレベルが強調されないよう配慮をし、また原油輸出国への経済的影響に関する記述では被害者感が減ることを懸念した。これら観察は、勿論筆者の思い込みなどが相当入っている。例えば、豪・加などの代表団メンバー数人に尋ねたところ、彼らのコメントの際に国の決定・方向性は影響しない、COPと違って科学者として参加している、と強調した。科学的に筋が通ったやり方で国を背負ってIPCCの議論に臨むというのが重要なのだ。