2006年1号

気候変動枠組条約第11回締約国会議(COP11) 及び 京都議定書第1回締約国会合(COP/MOP1)参加報告



 カナダのケベック州モントリオ-ルの会議場「Palais des Congres de Montreal」にて、気候変動枠組条約第11回締約国会議(COP 11)と京都議定書第1回締約国会合(COP/MOP1)が、2005年11月28日から12月9日にかけて開催された。京都議定書が発効した後の最初の締約国会合である本会合では、マラケシュ合意の採択、将来枠組み、遵守問題、6条(JI)監督委員会、CDM関連事項など様々な議題が世界の注目を集めた。
 2005年2月16日、京都議定書が発効し、G8サミットの場でも気候変動の問題が大きく取り上げられ、地球温暖化について世界中の関心が集まっている中での会議であったため、参加者は9,474名にもなり、前回と比べると3,300人も増加した。


会場

プレナリー風景

ニュースレターでは主な概要を掲載させて頂くので、報告書は以下を参照。
http://dev.gispri.or.jp/wp-content/uploads/2016/10/COP11_COPMOP1_Summary-1.pdf


【主な概要】
 1) マラケシュ合意
 マラケシュ合意とは、2001年7月にドイツ・ボンで開催されたCOP6再開会合において合意された京都議定書の運用ルールの中核的要素(ボン合意)に基づき、具体的な運用細則を定めた文書を正式採択したもの。マラケシュ合意には、CDM、JI、排出量取引などの京都メカニズム、技術移転、キャパシティービルディングや基金などの途上国問題、遵守問題などが含まれている。11月30日のプレナリーにてマラケシュ合意は採択された。

  2) 遵守ルール
 マラケシュ合意のうち、京都議定書の数値目標に関する不遵守の措置(排出超過分の1.3 倍の次期約束期間の割当量からの差引、次期約束期間における遵守確保のための行動計画の策定、排出量取引による移転の禁止)に関する手続きや遵守委員会について、以下のように決定された。
  COP/MOP3 (2007年12月)において決定を行うとの観点で、18条に規定する遵守に関係する手続き及び制度についての、京都議定書の改正問題の検討を開始する。
  SBIは、検討を、SB24(2006年5月)から開始し、その結果をCOP/MOP3で報告する。
  遵守委員会の第1回会合は、2006年初めに、ドイツのボンで開催される。
  遵守委員会は、COP/MOPが選出する20名のメンバーで構成され、そのうち10名は促進部の任務遂行のために選出され、10名は執行部の任務遂行のために選出される。
  浜中裕徳氏(慶応大学教授)が促進部の常任委員として選出された。

 3) 将来枠組みについて
UNFCCCに基づく将来取組みについて
 米国は将来の目標に関する交渉を開始しかねないものには全て反対するとの強固な姿勢をとっていたが、将来の交渉やコミットメントに何ら影響を与えることがないこと、及び新しいコミットメントを引き出すような交渉につながらないことを明記することで合意した。気候変動枠組条約のもとで米国や途上国含むすべての締約国の参加による「長期的協力に関する対話(モントリオール・アクションプラン)」が成立した。
  この対話は将来の交渉、約束、プロセス、枠組みなどの予断を持たずに開催する。
  この対話は、附属書I国と非附属書I国からそれぞれ1名、計2名の共同進行役によって進められ、結果をCOP12(2006年11月)、COP13(2007年12月)へ報告する。
  締約国は、この対話で討論すべき問題に関する考えを2006年4月15日までに事務局へ提出する。

京都議定書3条9項
 G-77/中国は、あくまで議定書附属書B改正による附属書I国のみの将来の数値目標策定を提案、日本はUNFCCC下での幅広い参加を主張し3条9項とともに9条のレビューを強調、EUは9条に言及しつつ、附属書I国のコミットメントの検討開始をするよう提案し、コンタクトグループでの議論が展開された。また、最終日のプレナリーでは、ロシアが途上国による自主的なコミットのメカニズムに言及するよう求めるなどもつれる議題となった。
  附属書Ⅰ国に含まれる締約国の2013年以降のコミットメントの検討は、期限制約のない(open‐ended)アドホックワーキンググループにおいて検討され、COP/MOPで進捗状況を報告する。
  検討を出来るだけ早く完了し、第一約束期間と第二約束期間とに空白を作らない。
  締約国は、議定書3条9項に関する見解を、2006年3月15日までに事務局へ提出する。

議定書9条に基づく議定書レビューの準備手続き
 最終日まで議論がもつれたが、気候変動枠組条約の見直しと連動した京都議定書の見直しをCOP/MOP2で行うことを定めた議定書9条に基づく作業の準備を開始することになった。COP/MOPは締約国に2006年9月1日を締め切りとして意見を提出するよう要請する。

 4) 6条監督委員会
  DOEは、6条監督委員会が認定要件を策定するまで暫定的に独立組織として機能しうる。
  ERUに対する課金を決定するためのプロセスを6条監督委員会が策定する。
  既存のCDM方法論及びプロジェクト設計書は、小規模プロジェクトに関するものを含み(適宜)利用可能である。
  6条監督委員会の運営資金の調達に関する課金について検討する。
  6条監督委員会に、工藤拓毅氏(日本エネルギー経済研究所)が委員代理として選出された。

 5) CDM関連
  早期実施プロジェクトの遡及クレジットを獲得するにあたって、従来の2005年12月31日までに登録申請、という締め切りを改訂。2005年12月31日までに方法論を提出、もしくは有効化審査の申請をして、2006年12月31日までに登録されれば遡及クレジットを申請できることとなった。
  二酸化炭素回収・貯留(CCS)のCDMとしての適合性については、SBSTA24と連結してワークショップを開催する。また、CDM理事会に、COP/MOP2に何らかの提案をすることを視野に、CCS方法論を検討するよう要請する。COP/MOP2でCCSに関するCDM理事会への指針について決定書を採択すべく検討する。
  政策や基準はCDMとしては認められないが政府のプログラムの下での複数のCDMプロジェクトは一つのプロジェクトとして登録できるとし、大規模プロジェクトのバンドリングは可とした。
  日本政府主導で進めるFuture CDMイニシアティブなど更に進めていくよう奨励。
  CDM理事会に小規模CDM方法論のクライテリアを見直しし、必要であればCOP/MOP2に提案するよう要請。
  CDM理事会の事務費用をまかなうため、収益の一部(Share of Proceed)の策定。暦年で1.5万トン分までのCERに対してはUS$0.1/CER。それを超えるものはUS$0.2/CER。COP/MOP2でこれについて見直しする。

 6) 次回の日程
 現在の予定では、COP12 及び COP/MOP2は、地域グループ間での輪番によりアフリ カ地域で2006年11月6日から17日にかけて開催される予定であり、ケニアが立候補している。


【所 感】
 マラケシュ合意が採択されたことで、京都議定書の下での排出量取引・CDM・JIが正式に立ち上がり、炭素は市場価値を得たことになる。炭素価格については、需要と供給の関係により市場が決定していくことになるので、今後の市場動向を注視していく必要がある。
 将来枠組みについては、「長期的協力に関する対話」(モントリオール・アクションプラン)は、全ての締約国の参加による対話プロセスについて合意されたものであり、今会合が全ての国が参加する実効性ある枠組みの構築に向けての道筋をつけたと言える。しかし、米国は、京都議定書に対して地球温暖化を避けるために何ももたらさないだろうとのスタンスであり、2013年以降についても法的拘束力を持つ温室効果ガス排出量目標やタイムテーブルを設定する交渉に加わる意向はないと表明している。また、インドや中国などの主要な途上国も、温室効果ガス排出量に関するいかなる義務も引き受けられないとの表明をしており、今後の交渉が容易でないことが想像出来る。UNFCCCのリチャード・キンリー事務局長代行は、京都議定書の後継となる合意ができるには、3年から5年はかかる可能性があり、2008年から2010年が新しい合意が正式決定される時期だろうと見通しを述べている。今後は、UNFCCCでの議論は勿論であるが、G8サミット・アジア太平洋パートナーシップや各国の動向を注視していく必要がある。
 本原稿執筆時、カナダにおいては、汚職やリベート問題がきっかけで不信任決議されたことを受け、2006年1月23日投票に向けて総選挙が行われている。世論調査では、京都議定書に反対している野党保守党が与党自由党をリードしている。選挙は投票が終わるまで分からないが、COP11及びCOP/MOP1で議長として活躍したステファン・ディオン環境大臣が現役職から退くのであれば、複雑な思いである。


(地球環境対策部 矢尾板泰久)


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