2003年9月1-4日には第2回スコーピング会合がドイツ・ポツダムにて開催され、WG報告書の骨子案の作成や「横断的課題」(各WGの担当分野をまたがって関連してくる事項のことで、AR4では「リスクと不確実性」、「適応と緩和」、「地域統合」、「持続可能な発展」、「水」、「主な脆弱性(UNFCCC第2条に関連した事項)」、及び「技術」の7課題が扱われている。)について協議が行われた。また、11月3-7日には第21回IPCC全体会合(IPCC21)とWG会合が行われ骨子案が各国のコメントを考慮した上で正式に採択された。IPCC21及びWG会合には140カ国以上から480名以上の科学者や政府関係者が参加し、日本からは関参事官(経済産業省)、竹本審議官(環境省)をはじめ、文部科学省、国土交通省、気象庁、林野庁からの関係者及び専門家が出席した(弊所から木村専務理事、阿知波課長、及び蛭田研究員が出席)。 弊所が主にウォッチしているWG III会合では、スコーピング会合時の案から更に大きく章立てを組み直した。特に注目すべきは、国際協力に関する章で各国の意見が折り合わず、国際協力に焦点をあてて評価作業を行いたい中国等と国内対策との関係をもあわせて議論したいUS等との間で長い議論が繰り広げられた点である。結果として、国際協力に重点を置きつつも国内対策との関係を加味することとなったかわりに、中国の強い主張を取り入れて骨子案の該当部分から「国内」という言葉をすべて削除するということになった。この例からも分かるように、政治的にニュートラルで科学的な文献であるはずのIPCC報告書も、「何を報告書の中で評価するか」という時点の議論では各国の状況と思惑が色濃く出ており、紙に記載される一字一句に各国が神経を尖らせているIPCCの姿が見えてくる。AR4全体としては、TAR時よりも各WGとも地域の差により注目して、地球上の気候の変化をマクロの視点からだけでなくミクロの視点からも捉え、より多くの人々に的確に地球上でどのようなことが起こっているかを知らしめると共に、政策決定者にとってより意志決定に役立つ文献になるよう腐心していることが分かる。また、どのWGも骨子案の他に、骨子案に反映出来なかった各国の意見や議論の内容が示された「ノート」というものを作成しており、執筆者に対してより詳しいガイダンスを与えることによって執筆作業をやりやすくすると共に、成果物が完成するまでの作業の透明性をも確保しようとしているIPCCの努力も注目すべき点である。しかし、様々な国の政治的な思惑が錯綜しているノートを渡された執筆者にとってそれが本当に「更なるガイダンス」になるだろうかと考えると、筆者はやや執筆者を気の毒に思う。とはいえ各国のスタンスが明らかになるという意味では非常に参考になるノートであることは確かであり、今後AR4の作業を進めていく上でウォッチを欠かせない部分である。
※ IPCC21及び第7回WG III会合の参加報告書は以下のリンク先を参照。 http://dev.gispri.or.jp/research/ipccs/ipccgispri |
以上 |
(文責:蛭田 伊吹) |